よっちゃんのぶっちゃけた話
File 32
“‘溜め’になる話”
2005/5/8
今回は身体意識にまつわる話をしたいと思います。身体意識と言っても範囲が広すぎて
一度には話し切れませんので、今回はその中でも僕が一番重要に考えていることについて
お話しします。'呼吸'です。呼吸とは誰もが知っているように、細胞が働くために必要な
酸素を体内に取り入れ、不要な二酸化炭素を放出することですが、私達はもっと広い意味
での呼吸というものも知っています。'呼吸が合う'、'呼吸が深い'、'息が長い'、などの
言葉に使われる呼吸、息という言葉は、生物学的な呼吸とは少し違う意味で使われています。
例えば初対面の人であっても、接しやすかったり、一緒にいて居心地が良いという人は、
'呼吸が合う人'であるし、逆に長く付き合いのある人でも'呼吸が合わない'という人もいます。
私達は無意識のうちに他者の呼吸、息づかいというものを感じ取り、同時に自分の呼吸も
他者に対して何らかの働きかけをしているものですが、この呼吸というものをより意識的に
行うことによって、自分の外部に対する意識、センサーをより繊細に保ち、それまでは感じ
取れなかったものを体感できるようにもなります。僕は六年ほど空手を習っていましたが、
フルコンタクト(実際に相手の体に打撃を当てる)だったので、組手の時は、まさに真剣
勝負です。「始め!」の声がかかっても、いきなり相手に突撃するようなことはせず、間合い
を計りながら、相手の呼吸を読むことから勝負は始まります。上級者ほど相手の息をつかむ
のが上手いので、相手の攻撃をさばき的確に相手をとらえることができます。空手に限らず
剣道、柔道といった日本古来の武術では共通してこの'呼吸を読む'ことが勝負の行方を大きく
左右するし、また侍の時代には、息づかいが悪ければ、すなわちそれは死を意味するものであ
ったはずです。そういう意味では、私達日本人は本来'呼吸'というものに長けた民族であったはずなのです。
さてここでいう呼吸というものが普段の生活の中でどのように働いているかと考える時、
大きく二つの要素があります。一つは精神と身体、くだいて言えば、心と体をつなげるもの
としての役割、もう一つは、自分の内部と外部をつなげる役割です。これらはダンスをする
うえで役立つ考えです。
まず前者についてですが、例えばダンスの競技会、デモンストレーション、ダンス以外でも、
入試試験、会社の面接、ピアノの発表、お見合いなど、何らかのパフォーマンスをする時は、
誰しも大なり小なり緊張するものです。そんな時に私達がするのは深呼吸です。大きく息を吸って、
ゆっくり吐く。呼吸が整うことにより精神的な緊張がほぐれると、体の無駄な力も
抜けてくることは誰もが体感したことあると思います。また、疲れているけどもう一仕事
しなければならないようなとき、息を強くフーッと吐くと、心の邪気が消えて体にエネルギーが
湧いてくるということもあります。このように私達は呼吸によって心と体を一致させる
方法を知っているわけですが、それをもっと積極的に普段の生活に取り入れたなら、自分の
精神、身体に対する感覚が鋭くなることでしょう。何事においても、上達するうえで、感覚が
研ぎ澄まされているということはとても重要なことです。
では二つ目の、'自分の内部と外部をつなげる'という働きについてです。とくにこれは
二人で踊るうえで具体的に使えることなので、実際試して頂けたらと思います。
呼吸とは何かを自分の内に取り入れ、それをまた外に戻すという行為です。何かの本で読んだのですが、
人と握手をするとき、息を吸いながら握手すると親近感がわき、相手を受け入れやすく、
吐きながらすると拒絶感というか、そこまでではなくても相手を遠くに感じる
そうです。僕も試したことがありますが、確かにそういう感じがします。
つまり呼吸することによって、自分の外にいる人を感覚的にではありますが、自分の内に引き込んだり、
また遠ざけたりできるのです。これってダンスに使えそうな気がしませんか?!
ラテンダンスはスタンダードに比べ、男女の位置関係が著しく変化します。
それは前後だったり左右だったり、向かい合ったり背を向けたりと様々です。
でも位置関係が変化する過程において繰り返し行われていること、それは男女が近づいたり離れたり
することです。結論から先に言うと、相手に近づくときは息を吸いながら相手を自分の中に吸収する
つもりで、離れるときは息を比較的長くゆっくり吐きながら、相手を自分の内から優しく解放するよ
うな感じで行ってみて下さい。息を吸うことで体(主に胸部)が膨らむこと(expansion)と、吐くこ
とで体(主に腹部)が閉じること(contraction)は基本的に男性と女性が同じアクションを起こしている
べきです。同時に一方がexpansionし、片方が contractionすることはほとんどないと思います。(タンデムポジションでダブルホールドして男女が反対方向に運動するような場合には例外もあります。) 吸うと吐くという対照的な運動を交互に反復する合間に、息を
'溜める'瞬間をつくることで、タイミングを合わせたり、スピードに変化をつけたりすることができます。呼吸無くしては、コネクションは生まれないと僕は考えています。
よくレッスンで「相手をキャッチする」という言葉を言ったり聞いたりしますが、それは互いの呼吸の'溜め'を合わせることだと僕は思います。皆さん、ジェットコースターに乗ったことありますか?一番高い所まで上がっていって、さあ急降下するという瞬間、一瞬、時間が止まるような感覚がしますよね。そしてその後、コースターに乗った人みんなが、いっせいに落ちて行く。これも受動的ではありますが、'溜め'が合った瞬間だと思います。
まずはそれぞれが呼吸を意識し、自分の動きの中に'溜め'をつくる。二人で組んで踊るときは、互いの息づかいを感じ、その中に'溜め'をつくることで、一人では出せないスピード、パワー、大きさ、タイミング、表現などを追及していく。これが今回の僕の提案です。
言葉以上に難しいとは思いますが、ダンスの上達を望むのなら、避けては通れないことだと
思います。まあ、まずは誰かと握手するところから始めてみては如何でしょうか?
今回のぶっちゃけ話を書くにあたっては、明治大学の教授で、最近テレビのコメンテーターとしても活躍中の齋藤孝氏著「呼吸入門」という本を大いに参考にさせて頂きました。
この本は、ダンスに限らず、あらゆるスポーツ、芸術、文化等を追求するうえで、大いに役に立つことがたくさん書いてありますし、また人生を正しく、強く、美しく生きるための手がかりになるようなことも学ばせてくれるものでした。幼いころから読書が大嫌いだった僕が、この歳になって、「本ってすげぇ」と思うようになった著書です。また同氏著の「身体感覚を取り戻す」という本も、重なっている部分もありますが、「なるほどー!」と思わせられる本です。本を読まれる方なら、数時間もあれば読めると思いますので(僕は数日かかりましたけど)、興味のある方は是非!!
YOSHIAKI